リウマチ・膠原病内科
ドクターインタビュー
複雑な疾患と患者さんに寄り添う診療
私は群馬県高崎市出身で、幼少期は開業医の歯科医師である父の影響もあり、医療が身近な環境で育ちました。高校2年生の時、進路を決めるタイミングで医師を目指すことを決意しました。それまでは画家を目指しており、小学生の頃から絵画教室に通い、中学からはデッサンや美術受験のトレーニングも積んでいました。しかし、才能の限界を感じ、高校生になった頃に美術系の進学を諦め、医師という職業への漠然とした憧れもあり、自然と医学部を志すようになりました。
医学部に進学してからも、専門を選ぶ際に迷うことはほとんどありませんでした。私の中で「医師」のイメージは内科医であり、患者さんにわかりやすく医学的な知識を教え、病気を治すだけでなく、相手の知らないことを伝える「先生」という役割に強く惹かれていました。そのため、そうした役割が色濃い内科医になることを自然に受け入れていました。
膠原病に惹かれた理由は、まずアカデミックな興味が強かったことです。自己免疫疾患は内科学の中でも特に学問的な探究心を刺激する分野であり、研究や知識を深める楽しさがありました。また、患者さんにとって非常に分かりにくい病気である点も、大きな魅力でした。
膠原病は、患者さんが「自分の病気は何ですか?」と尋ねた際、答えるのが一番難しい病気の一つだと思います。そのような「ややこしい」ことをわかりやすく説明し、患者さんに納得してもらうという業務が自分に向いているのではないかと感じていました。複雑な疾患を扱いながら、患者さんに寄り添って説明を尽くすことが、自分のスキルを活かせる分野だと考えたのが理由です。
免疫の誤作動が引き起こす疾患の仕組み
膠原病とは、私たちの体を守るために働く免疫のシステムが何らかの原因で正常に機能せず、自分自身の組織や臓器を攻撃してしまう病気です。この「膠原」という⾔葉はコラーゲンを意味し、体の中の結合組織という、⽪膚や関節、⾎管、内臓などを⽀える部分に多く含まれます。膠原病は、免疫の誤作動によって結合組織に炎症が起こり、それが痛みや腫れ、発熱といった症状として現れます。
膠原病にはいくつかの種類があり、代表的なものには全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ、皮膚筋炎などがあります。それぞれの病気によって症状や影響を受ける部位は異なりますが、共通しているのは、体のどの部分にも炎症を引き起こす可能性があるという点です。
原因は完全には解明されていませんが、遺伝的な素因や感染症、ストレス、ホルモンバランスの変化などが関与していると考えられています。治療では、炎症を抑えるための薬や、免疫の働きを調整する薬を用いることが多いです。
関節リウマチは、自分を攻撃してしまう膠原病の一種
関節リウマチは、免疫システムが誤作動を起こして自分の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。これによって関節の内側の滑膜に炎症が起き、痛みや腫れが生じます。進行すると、関節が破壊され、変形や動きにくさにつながることもあります。
主な症状は、手や足の関節の痛みやこわばりで、特に朝に手が動かしづらい「朝のこわばり」が特徴的です。原因は完全には解明されていませんが、遺伝やホルモン、ストレス、喫煙などが関係している と考えられています。
治療では、免疫を調整する薬や炎症を抑える薬を用い、病気の進行を防ぎます。早期診断と治療が重要で、適切に対応すれば日常生活を快適に過ごせるようになります。
関節リウマチ治療の転換点と、残された課題
関節リウマチの治療はこの20年間で飛躍的に進歩しました。2000年代初頭にメトトレキサートという薬が登場したことで、関節リウマチ治療に大きな転換点が訪れました。それ以前の治療は、痛み止めを使用し、関節が変形した場合には手術を行うというもので、根本的な改善は難しい時代でした。このため、内科でリウマチ治療を専門とする医師は非常に少なく、治療の選択肢も限られていました。
メトトレキサートの登場により、関節リウマチの治療が一気に進歩し、その効果の高さが注目されるようになりました。その後、分子標的治療薬が導入され、治療成績はさらに向上しました。それまでは、十分に症状が改善する患者さんは全体の2~3割程度でしたが、分子標的治療薬の普及によって7割以上の患者さんで良好な結果が得られるようになりました。しかし、依然として2割ほどの患者さんが十分に治療効果を得られていないため、これらの患者さんへの対応が現在の課題です。
根治を目指すのではなく、長期的な管理が基本
関節リウマチは、日本国内で60~70万人が罹患しているとされ、膠原病の中でも最も多くの患者さんがいる病気です。一方、指定難病に分類されるほかの膠原病は患者数が少なく、人口10万人あたり1桁台程度とされています。当院の外来でも、膠原病患者の半数以上が関節リウマチの方です。
膠原病の治療は根治を目指すものではなく、長期的な管理が基本です。治療が順調に進んでいる患者さんでも、途中で症状が悪化したり、合併症を起こすことがあります。そのため、治療の範囲は、調子が悪い患者さんを良くするだけでなく、治療が順調な方も含めて、全体的な健康状態を管理していくことに重点を置いています。
膠原病はその特性上、患者さんにとって難解で複雑な疾患です。私たちは、こうした疾患について患者さんにわかりやすく説明し、長期的に支えていくことを使命としています。治療の進歩により改善できる部分が増えたとはいえ、患者さん一人ひとりに合わせた丁寧な診療が今後も求められると感じています。
対話を重視し、患者さんの思いを引き出したい
私の治療理念は、患者さんとの対話を重視し、一緒に治療方針を考えていくことです。患者さんに病気や治療についてわかりやすく説明し、十分な情報を提供することは当然の前提です。それだけで終わるのではなく、患者さんからの「アウトプット」を引き出すことをとても重視しています。
具体的には、「自分は病気のことをこう考えている」「こういう治療をしたい」という意見や希望を言っていただけるような対話を目指しています。しかし、このアウトプットをどのように引き出すかは、常に課題として感じています。患者さん自身が自分の病気や治療について深く考え、その思いを伝えるためには、私たち医師がどのような環境やアプローチを用意すれば良いのかを模索し続けています。
患者さんのライフステージに寄り添った治療を
膠原病全般において課題となるのは、若い患者さんが病気と向き合う際の社会活動との両立です。膠原病の患者さんは、約8割が女性です。若い世代では妊娠や出産といった人生の大きなイベントが治療に影響される可能性があります。このような制約が生じないよう、薬を飲みながらでも妊娠・出産が可能となる工夫やサポートが必要です。
年齢が上がるにつれ、症状を訴える頻度(有訴率)が増え、病歴の長さに応じて他の病気が加わることもあります。そのため、患者さんが年齢や状況に応じて直面する課題は多様化し、対応すべき問題も増える傾向にあります。治療計画を立てる際には、患者さんの目標やライフステージに柔軟に対応し、最適な治療と生活支援を提供することが重要です。
時間をかけて、治療の方向性と計画を一緒に作り上げる
私の外来では、特に初診時に多くの時間をかけ、患者さんの状況や思いを丁寧にお伺いしています。初診では、患者さんに多く話していただくことで理解を深め、2回目の外来では検査結果を基に私から詳しく説明を行い、治療の方向性を共有します。初回で患者さんが話す時間と、2回目で私が説明する時間をしっかり確保することで、患者さんに安心感を持って治療を進めてもらえるよう努めています。
診療に時間を要することが多く、結果として待ち時間が長くなり、患者さんにはご不便をおかけしております。こうした状況に対して、現在外来の体制を強化し、三人体制で対応することで、少しずつ待ち時間の改善が進んでいます。患者さん一人ひとりに寄り添い、最善の治療計画を一緒に作り上げていくことを目指して診療に取り組んでいます。
職名 | 主任部長 |
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出身大学(卒業年) | 獨協医科大学(平成19年) |
日本内科学会 総合内科専門医
日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医