消化器外科
ドクターインタビュー
消化器センター長/主任部長 丸山 常彦
良性の疾患と悪性の腫瘍に対する手術
私たちのおなかの中には、食べたものを消化・吸収・排泄するために必要な消化器があります。消化器外科は、この消化器に生じた病気を手術によって治療する診療科です。
具体的には食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のほか、消化吸収に必要な消化液を分泌する、肝臓やすい臓、胆のうなどの病気に対する手術を行います。
具体的には食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のほか、消化吸収に必要な消化液を分泌する、肝臓やすい臓、胆のうなどの病気に対する手術を行います。
外科では手術による治療を専門的に行いますが、内科では手術ではなく薬剤による治療を専門的に行います。消化器内科は、内視鏡を使ってポリープなどの切除は行いますが、基本的には検査を行い、お薬によって治療をします。
手術が必要な病気には、良性の疾患と悪性の腫瘍に分けられます。悪性の病気は消化器系のがん、おなかのがんのことです。良性の病気は胆のう結石症や、盲腸で知られる虫垂炎、その他に胆のうにできる良性のポリープなどがあります。
増加傾向にある大腸がん
良性疾患の中でも、一番多く見られるのは「胆のう結石症」です。胆のう結石症とは、胆汁成分が固まり、胆のうの中で石ができてしまう疾患です。無症状なこともある疾患ですが、石が動いて痛みを伴う場合や、細菌などの感染を併発し、胆のう炎や胆管炎を起こしている場合は、胆のう摘出手術を行います。
その次に多い疾患はいわゆる「脱腸」です。太ももの付け根部分に発生するヘルニアを「鼠径(そけい)ヘルニア」といいます。ヘルニアとは、体の壁が薄く、弱くなっている部分から、腸などの内臓がおなかの外に飛び出してしまった状態のことで、腹部に生じるヘルニアの約80%は鼠径ヘルニアです。患者さんの約9割が男性で、50歳代以上の方が多いといわれています。
悪性腫瘍では、近年急増している大腸がんに対する手術件数が一番多くなっています。生活習慣の欧米化の影響といわれていますが、大腸がんの患者さんが増加傾向にあり、今後も増加すると予想されています。しかし、早期発見し治療を行えば、治癒が可能ながんです。
2番目に多い悪性腫瘍の手術は胃がんですが、胃がんは最近減ってきている病気です。胃がんは塩分の高い食事やピロリ菌が原因に挙げられますが、水道水の普及などによりピロリ菌の感染者が減少し、当院でも胃がん症例数は減ってきています。
当院での消化器外科の立ち上げ
私が水戸済生会総合病院に着任したのは、筑波大学の消化器外科教授が変わり、当院で消化器外科を新たに立ち上げるようになったことがきっかけです。もともと私は、低侵襲手術、腹腔鏡手術をさまざまな病院で行ってきたため、消化器外科を新たに立ち上げるにあたって、腹腔鏡手術を積極的に導入することとしました。
当時の水戸済生会総合病院では腹腔鏡手術の症例が多いとは言えない状況でしたが、おもに大腸がん治療において8割から9割を腹腔鏡手術に移行しました。私は内視鏡外科技術認定医の資格を持っていましたので、腹腔鏡手術を円滑に導入でき、手術の症例数も増加しています。
立ち上げ当初は医師も少なく、救急患者の受け入れが難しかったのですが、大学からの派遣人数も増え、現在は救急患者の受け入れ可能な状態になっています。
ライフスタイルを考慮し、適切な治療を選択
水戸地域に限らず全国的に高齢化社会が進んでおり、高齢患者さんに対する外科手術が非常に多くなってきています。正確なデータではないですが、70歳以上の患者さんが当院では6・7割程度を占めていると思います。最近では80歳代の方や、場合によっては90歳代の方も手術を行うことがあります。
当院では低侵襲と呼ばれる、からだに負担の少ない手術を積極的に行い、手術前後の管理では消化器内科、救急科、放射線治療科、専門看護師と協力し対応しています。そのため、高齢患者さんに対しても比較的安全で、からだに優しい手術を行うことができます。
最近では高齢者でも元気な方が非常に増えています。年齢だけでなく、患者さんの状態をしっかり把握し、適切な治療方法を選択しています。患者さんに安全に手術を受けてもらうことが最も大切です。患者さんの普段の生活や、これまでの病歴を確認し、手術が適しているかどうかを見極めています。
残念ながら、他の病気などが原因でどうしても手術が難しい場合には、内科の先生と相談しながら他の治療方法がないかどうかを検討しています。
残念ながら、他の病気などが原因でどうしても手術が難しい場合には、内科の先生と相談しながら他の治療方法がないかどうかを検討しています。
手術支援ロボットによる先進医療
当院では、手術支援ロボット「ダビンチ(Da Vinci)」の導入に向け、現在準備を進めています。手術支援ロボットを使って、医師が手術を行う術式を「ロボット支援下内視鏡手術」といいます。ダビンチは、世界中の医療現場で最も普及している手術支援ロボットです。
内視鏡手術と同様に、患者さんの体に小さな穴を開けて手術を行います。
内視鏡手術と同様に、患者さんの体に小さな穴を開けて手術を行います。
人間が手術を行う場合、どうしても手が震えたり、手術の場所によっては力加減によって、臓器が揺れてしまったりすることがあります。しかしロボット手術の場合は手ぶれ防止機能があり、手が震えることなく手術を行うことが可能です。ロボットのアームは人の手首を大きく超える可動域を持つため、手術部位に容易かつ正確にアプローチができます。また、3Dで奥行きのある鮮明な画像を見ながらアームを操作するため、従来の手術に比べ、より精密で安全な手術が可能です。
「ダビンチ」の導入
2018年より、ダビンチによるロボット支援手術は、消化器系のがんに対しても保険適用となりました。さらに保険診療では高額療養費制度が利用できるため、実質の負担額は、収入額にもよりますが多くの場合、数十万円程度となります。
そのため患者さんの金銭的な負担も少なく、低侵襲の手術が可能になります。
そのため患者さんの金銭的な負担も少なく、低侵襲の手術が可能になります。
「ダビンチ」は最新の技術ですが、万能ではありません。ロボット手術導入時には、緊急時に迅速に対応できるようなシミュレーションや練習を行うことが重要です。患者さんの安全を最優先に考え、危機対応の体制づくりに常に努めています。手術前には看護師や臨床工学師などが協力して訓練を行い、緊急時にも即座に対応できるような形で手術をすすめます。
また、導入時には筑波大学の消化器外科のバックアップをいただき、ロボット支援手術を数多く経験されてきた先生から指導を受け、安全に、かつ慎重に導入に向け準備をすすめています。
地域の医療機関の先生方へ
当院の消化器内科は県内でトップクラスの人数と診療内容を備え、優れたスタッフが揃っています。良性・悪性の疾患に関しての診断・検査は、非常に高い水準といえます。その消化器内科で診断・検査をしていただいた症例のその後の手術においても、体に負担の少ない低侵襲かつ安全で精密な手術を心がけています。
悪性・良性を含む手術が必要な症例については、当院に紹介いただければ適切に対応します。外科のスタッフも増えており、救急疾患にもできるだけ対応する仕組みを整えています。救急が必要な患者さんについても、まずは紹介いただければ迅速な対応が可能です。
地元、茨城県の魅力
私は小学校の頃からずっと茨城に住んでおります。茨城県は実は魅力的で、美味しい食べ物や素敵な場所がたくさんあります。茨城弁は怒っているように聞こえますが、地元の人たちは実際にはとても優しいですよね。これらの魅力を感じながら、生まれ育った茨城に医療を提供することが大切だと考えています。
丸山 常彦 (まるやま つねひこ)
職名 | 消化器センター長/主任部長 |
---|---|
出身大学(卒業年) | 筑波大学(平成4年) |
専門領域 | 腹腔鏡手術を含めた消化器一般外科 |
認定資格等
日本外科学会 外科専門医・指導医
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医・認定医
日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医
日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医
日本肝臓学会 肝臓専門医・指導医
日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・指導医
日本消化管学会 胃腸科専門医・指導医
日本食道学会 食道科認定医
日本静脈経腸栄養学会 指導医・認定医
日本胆道学会 認定指導医
日本膵臓学会 認定指導医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本腹部救急医学会腹部救急 暫定教育医・認定医
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会 ストーマ認定士
日本病態栄養学会 専門医・NSTコーディネーター
インフェクションコントロールドクター