子宮動脈塞栓術(UAE)
子宮筋腫とは閉経前の女性25%程度に見られる良性腫瘍(平滑筋腫)です。女性ホルモンのエストロゲンによる慢性的な刺激が原因であり、閉経後は自然に縮小します。
無症状で偶然見つかることがほとんどですが、10〜20%の方は症状があります。
治療が必要となる子宮筋腫
月経過多による貧血、月経困難(月経時腹痛や腰痛)、腰痛、下肢痛(坐骨神 経痛)、頻尿、排尿障害、便秘などの症状がひどい場合。
治療方法
- 経過観察:特に症状が無ければ経過観察できます。
- 鎮痛剤や貧血改善薬(鉄剤)の内服:内服薬で症状の緩和を図ります。
- ホルモン療法:副作用・再発の可能性、また長期間使用できないことがあります。
- 子宮全摘術または筋腫核出術:開腹手術で子宮筋腫を摘出します。
- FUS(収束超音波治療):熱して壊死させる
- 子宮動脈塞栓術(UAE):左右の子宮動脈を詰めて壊死させる(梗塞)
子宮動脈塞栓術(UAE)の原理
正常子宮筋層、子宮筋腫はどちらも血液の大部分を左右の子宮動脈から受けています。正常子宮筋層は子宮動脈塞栓後に卵巣動脈や膣動脈、他の骨盤 内の動脈の細い枝からの血液が入り、24時間以内に血流が回復し、壊死しません。それに対して、子宮筋腫には子宮動脈(ごく稀に卵巣動脈)の枝だけが入り、子宮動脈塞栓後に周囲臓器の動脈の細い枝からの血液が入ることはなく、血流が回復しません。そのため子宮筋腫のみを壊死させることができます。
子宮動脈塞栓術(UAE)の概要
治療のゴール
閉経まで日常生活に支障がない程度の症状にコントロールすることが治療のゴールで、筋腫を全てなくすことが目的ではありません。
治療の流れ
局所麻酔で行う治療です。
通常は右の足の付け根の動脈(大腿動脈)から針を刺して直径1.7mm程度の細い管を挿入します。
X線透視を見ながら、造影時を用いて両側の子宮動脈にカテーテルをすすめて、細かい粒状の塞栓物質を動脈内に注入します。
終了後はカテーテルを抜いて、15〜20分程度の圧迫止血で終了します。
子宮動脈を塞栓した際に下腹部痛・腰痛が出現することがあり、点滴から鎮痛薬を投与して対応します。再出血のリスクがあるため、治療後5時間、右下肢は曲げられずベット上安静になります。安静解除後は通常の歩行が可能になります。
- 当院では3泊4日の入院を基本とし、社会生活への復帰は1〜2週間後です。
- 保険診療が可能となり、費用は3割負担でおよそ15~20万円程度です(詳細は窓口でお問い合わせください)。
治療のゴール
- 過多月経の改善は 81〜100%、圧迫症状の改善は 64〜100%、子宮筋腫の体積の平均縮小率は44〜73%、治療に対する満足度は84〜100%です。
- 約5〜10%で別の動脈(卵巣動脈)に支配された子宮筋腫が子宮動脈塞栓術後に小さくならないことがあります(症状によって追加治療を行います)。
- 全体として90%以上の確率で手術を回避できます。
起こりうる合併症
- 世界で既に数万例の子宮動脈塞栓術が行われたと考えられていて、死亡例は数例(いずれも外国の報告で、敗血症や肺塞栓症)です。
- 子宮、卵管の感染は 1〜2%
- 子宮摘出が必要となることは1ヶ月以内0.38%。平均1〜2%です。
- 自然経過のひとつですが、10%程度で筋腫分娩となり、娩出された筋腫の経膣的除去が必要になります。
- 永久的な卵巣機能不全(早期閉経)は 1〜14%(平均 5%)で、大半が45歳以上の患者さんです(40 歳以下では約1%)。
- 塞栓術後症候群(発熱、痛み、吐き気、食欲不振、全身倦怠感、炎症反応) は様々な程度で見られます(数日間)。痛みに対しては静脈内注射の鎮痛薬を使用し、良好なコントロールが得られます。
カテーテル手技に関連した合併症
- 穿刺部の血腫・仮性動脈瘤:両側の下肢の動脈を穿刺して手技を行います。治療後は圧迫止血を行いますが、体動により再出血するリスクがあります。再出血した場合には再度圧迫止血を行ったり、場合によっては手術加療が必要になることがあります。再出血の予防のため、下肢の安静保持をお願いしています。
- ヨードアレルギー・腎機能障害:造影剤を使用しますので腎機能障害の増悪やアレルギーのリスクがあります。
- 血栓塞栓症:血管の壁に付着していた血栓やコレステロール血症・カテーテルに付着した血栓が末梢の血管に流れて血管の閉塞症状がでることがあります。
子宮動脈塞栓術(UAE)の対象とならない人
- 閉経後の人。妊娠している人。ホルモン療法後3ヵ月以内の人。
- 以前に子宮動脈を結紮する手術を受けている人。
- 妊娠・出産を希望する人。
子宮筋腫が不妊や流産の原因であった人が、子宮動脈塞栓術後に出産した 例など子宮動脈塞栓術後に100例以上の妊娠、50例以上の出産が報告され ています。しかし、子宮内膜の炎症性癒着が起こる可能性もあり、妊娠には不利になる可能性も考えられており、今のところ結論が出ていません。
- 子宮・卵巣の悪性腫瘍が疑われる人。
- 子宮筋腫が原因の症状で困っていない人。
- 骨盤内に活動性の感染・炎症がある人。
- ヨードアレルギーがある人。
- 子宮腺筋症(内膜症)の治療が目的の人 1年間程度は効果がありますが、再発し、追加治療が必要となります。再発時 に追加治療を行うことを前提に施行することは可能です。
当院での治療成績
2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
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件数 | 4 | 9 | 1 | 1 |
両側子宮動脈へのカテーテル挿入・塞栓の成功率は100%です。
85〜90%程度の方が治療1ヵ月から半年の間に出血量の減少や腹満感の改善など,症状の軽減をみとめています。また筋腫の縮小は個人差がありますが、87%程度の方が治療半年以内で筋腫の縮小をみとめます。
治療後は下腹部痛や微熱などの塞栓術後症候群を多くみとめますが,1週間程度で軽快し、鎮痛薬の服用で日常生活は問題なく過ごされている方がほとんどです。
手技に関連した死亡例はありません。
UAE後の合併症(2017〜2020)
穿刺部関連の合併症 | 0/15 |
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塞栓後症候群(腹痛・腰痛・微熱 | 14/15 |
筋腫感染 | 1/15 |
不正性器出血 | 3/15 |
死亡 | 0/15 |
当院では産婦人科と連携し、子宮動脈塞栓術(UAE)を血管内治療グループで行っています。治療を希望される場合やご不明な点は産婦人科外来で外来担当医にご相談ください。