小児科知識ブログ
花粉症で外来に来た子のお父さんから「自分も花粉症があるんですが、筋肉注射で良くなりました。」と言われました。よく話を聞くと、「ケナコルト®」というステロイドの筋肉注射薬でした。
前回お話しした「ゾレア®」も注射のお薬ですが、ステロイドの注射薬ではありません。(スギ花粉症に注射薬(ゾレア®)って効くの?)
「ケナコルト®」は長く効くステロイドで、花粉症に対して使用する際には大量のステロイドをスギ花粉飛散時期に投与して数ヶ月効果を持たせようという治療となります。1回の投与で症状を軽くできる方もいるため、手軽に見えます。では「ケナコルト®」はオススメなのでしょうか?
結論から言うと、「効果はあるが重大な副作用があるため、慎重に使うべき」です。
まず、前回にも出した鼻アレルギー診療ガイドライン2020の重症度ごとの治療になります。
アレルギー性鼻炎ガイド 2021年版
この中で、ステロイドの筋肉注射薬はどの重症度でも推奨されていません。
その理由は、「ステロイドの副作用」です。
ステロイドの副作用(日本リウマチ学会)
- 易感染性:免疫力が低下するため感染症にかかりやすくなります。手洗い、うがい、マスク着用、人混みを避けるなど感染症対策をして下さい。ステロイドの内服量が多い時は感染予防の薬を内服することもあります。
- 糖尿病、高脂血症、高血圧:過食をしない、塩分制限などの食事療法を行うことが大切です。場合によっては、糖尿病・高脂血症治療薬や降圧薬を内服することがあります。
- 消化性潰瘍:胃や十二指腸に潰瘍ができやすくなります。胃酸分泌を抑制する薬や胃粘膜を保護する薬を内服します。
- 骨粗鬆症:骨が脆くなりやすいため予防薬(ビスホスホネート薬など)を内服します。
- 満月様顔貌:脂肪の代謝障害により起こります。ステロイドの減量で改善します。
- 精神症状:不眠症やうつ病になることがあります。重症な場合は抗うつ薬を内服します。
- その他:白内障、緑内障、ステロイド筋症、生理不順、痤瘡などがあります。
安易にステロイドの筋肉注射には進まず、上記の重症度に合わせた治療に応じた適切な治療をするようにしてください。
当院で実際にどのような食物アレルギー診療をしているかはコチラをご覧ください!
スギ花粉症の頻度は増加しており、スギ花粉症を発症している子ども達も増えてきています。
松原 篤ほか:鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年, 2008年との比較): 速報-耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として-, 日耳鼻 2020; 123: 485-490.
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会より2020年版の鼻アレルギー診療ガイドラインが発行され、重症度に応じた治療について発表されました。
アレルギー性鼻炎ガイド 2021年版
今回はこの中の「生物学的製剤(抗体療法)」のお話しです。
2019年に「ゾレア®」という薬が重症なスギ花粉症に使用することができるようになりました。
「ゾレア®」とは抗IgE抗体と呼ばれ、スギ花粉症はスギ花粉(抗原)が入った時にIgE抗体が結合し、マスト細胞とも結合することで、アレルギー反応を起こしますが、IgEがマスト細胞と結合するのを抑えることでアレルギー反応を起こすことを抑えます。
「そもそもアレルギー反応を起こさせなくする」という薬のため、スギ花粉症の方に対しては良い選択肢となります。しかし、高価なお薬なため、どんな患者さんに使えるかが細かく決まっています。次の基準に当てはまるときはスギ花粉のシーズンに投与できる可能性があります。
まず以下の4つを確認します。
次に、スギ花粉飛散時期の最もひどかった時の症状を確認します。具体的には以下の表で1日のくしゃみの回数、1日の鼻をかんだ回数、鼻づまりの程度を確認します。
全ての項目で1点以上、かつ、3点以上の項目が1つでもあれば重症なスギ花粉症と当てはまります。加えて、抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬が使用されていたかも確認しています。
実際に「ゾレア®」を投与するのはスギ花粉飛散時期になります。投与を検討しているシーズンに、まず従来の治療法(抗ヒスタミン薬+ステロイド点鼻薬)を使用して1週間以上治療し、上記の重症なスギ花粉症に当てはまる場合にゾレア®の投与を開始します。
スギ花粉のシーズンは受験シーズンと重なるため、スギ花粉症の治療は学業の面でもとても重要となってきます。スギ花粉症でお困りの方はぜひ検討してみてください。
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卵アレルギーのある患者さんに「インフルエンザワクチン打てないんですか?」とよく外来で相談されます。
今日は「卵アレルギーとワクチンの関係について」お話しします。
今回取り上げるワクチンは次の3つです。
1. 卵アレルギーとインフルエンザワクチンについて
2. 卵アレルギーと麻疹風疹ワクチン(MRワクチン)、おたふくかぜワクチンについて
3. 卵アレルギーとコロナウイルスワクチンについて
1. 卵アレルギーとインフルエンザワクチンについて
インフルエンザワクチンの添付文書を見ると、「鶏卵で培養」して作製されていると書かれています。卵に小さな穴をあけて、インフルエンザウイルスを入れて増やし、感染力を無くして作っています。
この際、卵の成分を完全に除去することはできず、鶏卵タンパク質は数ng/mL以下(1mL中に1gの10億分の1以下)と極めて微量ではありますが、残ってしまいます。その結果、添付文書には「鶏卵に対してアレルギーを呈する恐れのある者」は接種要注意者となります。
しかし、ほとんどの場合、卵アレルギーがあってもインフルエンザワクチンの接種は問題ありません。実際に卵アレルギーがある方と卵アレルギーのない方のインフルエンザワクチン接種後の副反応を比較した研究では副反応の頻度に差はなかったと報告されています1)。
1) Remi Gagnon, et al., JACI, 126, 317-323, 2010.
2. 卵アレルギーと麻しん風しんワクチン(MRワクチン)、おたふくかぜワクチンについて
MRワクチン、おたふくかぜワクチンについてもよく卵アレルギーの方が気にして「卵が使われているのでは?」と質問して頂きます。しかし、ワクチン製造過程で使用しているのはニワトリの胚細胞であるため、アレルギー反応を起こす鶏卵タンパク質は含まれていません。接種の問題はないと話していたインフルエンザワクチンよりも安心して接種ができます。
3. 卵アレルギーとコロナウイルスワクチンについて
食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎や花粉症、じんま疹、アレルギー体質などがあるといった理由だけで、コロナウイルスワクチンの接種を受けられないわけではないと厚生労働省が明確に答えています。
今までにアナフィラキシーなどの重いアレルギー反応を起こしたことがある方には、摂取直後に調子が悪くなった時に速やかに対応できるように、接種後、通常より長く(30分間)、接種会場で待機していただくこととなっています。
現在、小児(5-11歳)への接種が進められていますが、「努力義務」(接種を受けるように努めなければならない)というわけではありませんので、各家庭で考えながら接種の予約をして頂いていると思います。ここでは、「アレルギーがあることはコロナウイルスワクチンを打たないという理由にはならない」ということだけお答えしておきます。
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アレルギー検査を実施して卵白がクラス2, クラス3と陽性となっていたとき、それだけで完全に除去してしまっている方がたくさんいます。実際にその検査結果で、どれくらい摂取できるのかを答えていきたいと思います。
今回は「イムノキャップ」で測定した結果のプロバビリティカーブをお示しします。「View39」などの多項目を同時に測定できる検査結果は当てはまらないことに注意してください。(39項目のアレルギー検査は慎重にすべき4つの理由)
食物アレルギーの診療の手引き2017
ここで出てくる3種類の卵料理ですが、「全卵1個炒り卵」は言葉通り、全卵1個をしっかり火を通して作った炒り卵です。「加熱全卵1/4つなぎ」は全卵1/4個をパンケーキやハンバーグなどに使用したもので、全卵1個を使用して4つパンケーキやハンバーグなどを作ったうちの1つのことです。「加熱卵黄つなぎ」とは生卵の殻を割ってその殻同士を卵黄を行ったり来たりさせてなるべく卵白を残さないようにした卵黄を使用してパンケーキやハンバーグなどに使用したもので、卵白量では1-2g相当で全卵1/32個相当です。アレルギー症状はタンパク量が多い方が出現しやすくなるため、症状誘発の可能性は「炒り卵1個」>「加熱全卵1/4つなぎ」>「加熱卵黄つなぎ」となります。実際のアレルギー診療ではリスクの低い順に摂取できるかどうかを確認していくため、「加熱卵黄つなぎ」⇨「加熱全卵1/4つなぎ」⇨「炒り卵1個」と進めていきます。(詳しくは当院の小児食物アレルギーのページをご覧ください。)
「イムノキャップ」でクラス2とは0.7-3.5未満、クラス3とは3.5-17.5未満のことを言います。
「クラス2」の方は「加熱卵黄つなぎ」はほとんどの場合摂取でき、「加熱全卵1/4つなぎ」は5-20%程度、「炒り卵1個」は30-60%程度でアレルギー症状が誘発されます。
「クラス3」の方は「加熱卵黄つなぎ」は5-15%程度、「加熱全卵1/4つなぎ」は20-40%程度、「炒り卵1個」は60-80%程度でアレルギー症状が誘発されます。
いかがでしょうか?少なくとも「加熱卵黄つなぎ」程度であれば摂取できる可能性はかなりあります。食物アレルギー診療の原則は「必要最低限の食物除去」と言い、食べられる範囲で食べていることで治るのが早くなります。逆に言えば、採血結果のみでの不適切な除去をすると食物アレルギーが治りにくくなりますので注意が必要です。
採血でよく「卵白」と一緒に測定する「オボムコイド」については以下の記事を参考にしてください。
(オボムコイドのクラス2, クラス3ってどれくらい食べられるの?)
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「オボムコイド」とは卵白の中にあるアレルギーの原因となる主要なタンパク質であり、熱に強いという特徴があります。(アレルギー検査のオボムコイドってなに?)
採血でオボムコイドの値を測定することにより、「卵料理を摂取したときのアレルギー症状が出現する可能性」を予測することができます。
ここでいう「オボムコイド」は1項目ずつ検査するものを選んで測定する「イムノキャップ」や「アラスタット」の値です。「View39」などの多数の項目を一括して測定するような検査の結果は利用できませんのでご注意ください。(39項目のアレルギー検査は慎重にすべき4つの理由)
今回は「イムノキャップ」と「アラスタット」による採血を実施して、「オボムコイド」の「クラス2」、「クラス3」だった方に向けて解説します。クラス分類は0-6までの7段階で、0が一番下、6が一番上です。2以上を陽性と捉えるので、「クラス2」の方は陽性の患者さんの中では一番下、「クラス3」の方は下から2番目ということになります。
以下のプロバビリティカーブを利用します。プロバビリティカーブについての説明は「アレルギー検査のオボムコイドってなに?」を参照してください。
まず、「イムノキャップ」についてです。
イムノキャップ 加熱卵粉末摂取
GroupA 1歳全卵1/2個相当,GroupB 2-6歳全卵1個相当
縦軸:アレルギー症状出現可能性,横軸:オボムコイドの値
Furuya K, Nagao M, Sato Y, et al; investigators IPg. Predictive values of egg-specific IgE by two commonly used assay systems for the diagnosis of egg allergy in young children: a prospective multicenter study. Allergy. 2016; 71: 1435-43
イムノキャップで「オボムコイドクラス2」とは測定値だと0.7-3.5未満のことを言います。上のプロバビリティカーブに照らし合わせると、1歳児で全卵1/2個相当を摂取すると20-40%程度の子どもにアレルギー症状が出現し、2-6歳児で全卵1個相当を摂取すると15-40%程度の子どもにアレルギー症状が出現することになります。
イムノキャップで「オボムコイドクラス3」とは測定値だと3.5-17.5未満のことを言います。上のプロバビリティカーブに照らし合わせると、1歳児で全卵1/2個相当を摂取すると40-70%程度の子どもにアレルギー症状が出現し、2-6歳児で全卵1個相当を摂取すると40-80%程度の子どもにアレルギー症状が出現することになります。
印象はいかがですか?意外多く感じますか?実際のアレルギー診療ではより安全に摂取を進められるように、より少量の食物経口負荷試験を準備しています。(当院小児食物アレルギー特集ホームページ)
次に「アラスタット」ではいかがでしょうか?
アラスタット 加熱卵粉末摂取
GroupA 1歳全卵1/2個相当,GroupB 2-6歳全卵1個相当
縦軸:アレルギー症状出現可能性,横軸:オボムコイドの値
Furuya K, Nagao M, Sato Y, et al; investigators IPg. Predictive values of egg-specific IgE by two commonly used assay systems for the diagnosis of egg allergy in young children: a prospective multicenter study. Allergy. 2016; 71: 1435-43
アラスタットで「オボムコイドクラス2」とは測定値だと0.7-3.5未満のことを言います。上のプロバビリティカーブに照らし合わせると、1歳児で全卵1/2個相当を摂取すると15-25%程度の子どもにアレルギー症状が出現し、2-6歳児で全卵1個相当を摂取すると5-15%程度の子どもにアレルギー症状が出現することになります。
アラスタットで「オボムコイドクラス3」とは測定値だと3.5-17.5未満のことを言います。上のプロバビリティカーブに照らし合わせると、1歳児で全卵1/2個相当を摂取すると25-50%程度の子どもにアレルギー症状が出現し、2-6歳児で全卵1個相当を摂取すると15-55%程度の子どもにアレルギー症状が出現することになります。
「イムノキャップ」と「アラスタット」は同様の傾向を示していますが、実際の値が表す意味は異なっていることに注意が必要です。
採血で「オボムコイド」と一緒に測定する「卵白」については以下の記事を参考にしてください。
(アレルギー検査で卵白クラス2, クラス3ってどれくらい食べられるの?)
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「気管支喘息」とは空気の通り道(気道)に炎症(ボヤ)が続き、さまざまな刺激に気道が敏感になって発作的に気道が狭くなる(大火事)ことを繰り返す病気です。(日本呼吸器学会)
症状としては咳や痰が出て、ゼーゼー、ヒューヒューという音を伴って息苦しくなります(喘息発作と呼びます)。夜間や早朝に出やすいのが特徴です。
日本呼吸器学会
また、「乳幼児喘息」は5歳以下の反復性喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューのエピソードを繰り返す)のうち、明らかな24時間以上続くエピソードが3回以上あり、気管支拡張薬の吸入後に症状の改善が認められる場合のことを言います。(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020)
気管支拡張薬の効果が乏しい場合には「診断的治療」を行います。「診断的治療」とは診断をするために治療を行なってみることを言います。1ヶ月間、ステロイド吸入薬やロイコトリエン受容体拮抗薬の内服などの治療を行い、経過観察することで効果があれば(喘息発作が起きなければ)「乳幼児喘息」と診断します。
「乳幼児喘息」と診断した後は「IgE関連喘息」と「非IgE関連喘息」とに分類します。乳幼児IgE関連喘息の診断に有用な初見として以下の6つが小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020には挙げられています。
- 両親の少なくともどちらかに医師に診断された喘息がある。(過去にかかっていたものも含む)
- 本人に医師に診断されたアトピー性皮膚炎がある。(過去にかかっていたものも含む)
- 本人が吸入アレルゲン(ダニやハウスダストなど)に対する特異的IgE抗体陽性である。
- 家族や本人のIgEの値が高い。
- 痰の中に好酸球などが存在すると言われたことがある。
- 気道感染がないと思われるときに喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を起こしたことがある。
なぜ「IgE関連喘息」と「非IgE関連喘息」を分類することが大事なのかは「喘息が学童期以降も継続するかどうかを判断する材料となるから」です。約8割の乳幼児期の喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)は一過性に改善しますが、約2割程度は学童期まで持続します。「IgE関連喘息」の多くは学童期まで継続するため、ステロイド吸入薬やロイコトリエン受容体拮抗薬の内服などによるより慎重なコントロールが必要となります。
乳幼児喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を3エピソード以上認めている場合には気管支拡張薬などの治療を行い、「乳幼児喘息」と正しく診断し、アレルギー疾患の家族がいるかどうか、採血を実施してダニなどの吸入薬アレルゲン特異的IgE抗体の値を確認し、「IgE関連喘息」なのかどうかを確認し、適切なコントロールをしていくことがポイントとなります。
自分の子どもが喘息なのかな?と思ったら是非参考にしてみてください。
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